80年代うまれ(かながわ県)

80年代うまれの思い出し日記

ドラゴンボールでいちばん強いやつ

 僕の住む街で、美しいや素晴らしいはなかなか聞けないし、言うこともない。小金山からの景色くらいはまあ、まあ。
 17歳くらいから心はふさぎつづけて、本当は壁紙のシミくらいの存在価値しかない自分に虚勢をはりながらオーケーにカツ丼を買いにいく。
 向かいから親子が歩いてくる。母が息子になにかたずねている、幼い息子が必死になにかを説明しているみたい。その光景を見てるだけでも何故だかうしろめたいのに、さらに追い討ちがかかる。
「ごくうは、べじーたーよりつよくて、べじーたーはふりーざーより強いんだよ! かめはめはーは、ごくうのわざで…」と、夢中な息子。
 そして母は、息子の夢中を大切にしようと、優しく提案した。
「じゃあ、帰ったらパパにも教えてあげようね。ドラゴンボールでいちばん強いやつ!」
  幼い息子はいっそう高く跳ねるように喜びながら、母の手をしっかりとにぎって歩いていった。この母は僕より十は若かった。きっとパパも歳下なんだろうな。
 どんどん歳をとるのに、ぜんぜん大人になれないのはなんでよ、これ、と考えながらカツ丼にギョーザとフライドポテトも付けて買って、僕は帰り道に「ベジットか」と、つぶやいた。

 

 

 

 

読んでくれてありがとう。明日も元気で!

多分僕もまた来ます。