80年代うまれ(かながわ県)

80年代うまれの思い出し日記

トロルとトトロ

夏の日の午後のことです。低学年だった僕は阿久和町という懐かしい町で、ひろちゃんと背の高い草むらの中を進んでいました。僕らの足元は一度刈られてから鋭く槍のように尖った枯れ草の茎だらけで危険もありました。遠くに目をやると、丹沢の稜線が勇ましく山頂からくだっているのが見えます。草むらにはオンブバッタ、キチキチ、もちろんカマキリもいます。遥か高いところではむくむくと膨らみ続ける真っ白な雲が太陽に影と光の輪郭をつけられて美しく、僕らは夏の中心でした。

 これはドラクエだ!ファイファンだ!

 大冒険だ!

 僕は冒険の勇者だ、君は戦士だ。さあ武器を持って怪物をやっつけなきゃ。阿久和町を救わなくちゃ。

 僕とひろちゃんは草むらの中で高ぶっていきます。えい、やーと背の高い草と闘えば、幼い冒険心は空の雲より、丹沢の山より高く膨らんでいくんです。いまや草むらにそそぐ眩しい夏の陽光の影では、どんな怪物が隠れているかわかりません。

 「うわあ、なんか踏んだ」

「どうした! 何かあったのか?」と、返す僕は探検隊の隊長です。

「今すごく、大きくて、やわらかい、変なの踏んだよ。たぶんトトロだよ」

「ととろ? トロルでしょ? ひろちゃんは間違えてるよ。トトロじゃなくて、トロルっていうんだよ」

「トロルは知ってるよ。ドラクエでしょ。れいくんは間違えてるよ。トロルじゃなくて、トトロっていうんだよ。森に住んでるんだよ」

 ここは草むらです。僕らはトトロについて話し合いました。しーんとした、草むらの中で僕とひろちゃんは不思議な生き物の存在を感じていました。

 夏休みの特番で僕はトトロがなんなのかをすっかり知りました。

後日、一人で草むらに向かった僕が見たのは大きなカマキリがオンブバッタのメスを捕食しているところでした。すっかりカマキリの食事が終わったところで僕もお昼を食べようと家に戻ろうとしたところ。

「ああ、これだ!」

 僕も大きな何かを確かに踏んづけたんです。

それは柔らかくて、暖かくて、大きな、枯れ草の山でした。

 その夜、僕は家族にトトロを見たと話しましたよ。驚いたのは、僕の両親はトロルでさえ知らなかったこと。

 夏の日の午後のことです。

 

 

 

読んでくれてありがとう。明日も元気で!

僕も多分また来ます。