80年代うまれ(かながわ県)

80年代うまれの思い出し日記

新発売

15年も経てば時代が一つ終わり、僕は休憩室のパイプイスに座っていた。今じゃすっかり人の出入りも多くなった駅ビルの改築工事だった。現場監督のつまらない檄が飛び、つまらない規則が休憩室に貼り出されている。

 現場ではヘルメットを着用

 挨拶の徹底

 僕らの80年代はいくつも過ぎ去った。たくさんの新発売も。いま僕の目の前を、おっさんが新発売にお湯を入れて、つまらない規則の前に腰掛けようとしている。また新発売が過ぎ去ろうとしている。僕はなるべく早く家に帰り、新発売のゲームをしたいと考えている。

 わかっているのだ。80年代からずっと、僕がどんなにか夢中だったとしても、大人は誰も、ただの一度も、足を止めて眺めてくれるようなことはなかった。80年代ならば、それでも僕はやることができたのに。

 短い休憩がまた終わるよ。

 換気扇の音はおばあちゃんの家を思い出します。誰かがスイッチを入れ、ライターを使って「メビウスは何色が好き?」と、休憩室の中を見回したけど。今では吸う人の方が少ないという具合。

 休憩室には30分おきに人が出入りし、誰も汚れを拭かない電子レンジが一台、栄養ドリンクがぎっしりの冷蔵庫がぶーん、換気扇もぶーん。砂漠の真ん中より退屈に違いなくて、窓を開けると頭にくるほど冷たい北風が入ってきた。

 休憩は残り10分、僕はライターをテーブルの上で立てる、寝かす、立てる、をゆっくり繰り返す。こうしていると残り6分

 休憩室の窓の外、僅かに見える景色に子供が見えた。何もないところで子供は跳ねて、バランスを失った。なんだ、おばあちゃんも一緒じゃないか。子供がもう一度跳ねてみせて、もう一度跳ねてみせて、もう一度跳ねてみせて、おばあちゃんは困っていないかな、と僕は見ていた。

 「なんだよ。お前、タバコ吸うんじゃねーかよ。ライター持ってるし。無視すんなよ」と、怒鳴られたところ、時計を見ると休憩は終わり。もう一度窓の外を見ると子供とおばあちゃんはいなくなっていた。

すぐにこの仕事はやめなくちゃならない。

「うるさいわ。興味ないんじゃ! 早く帰ってドラクエやんだよ。俺は」

 

 

読んでくれてありがとう。明日も元気で!

多分僕もまた来ます。