空き缶リサイクルと教師のビンタ
五年生になって新しいクラスに慣れ始めた六月、ほんの少しの好奇心から、悪意を持たない、僕と友だちはうわさの男たちになった。
事の起こりは登校時、朝である。僕は集団登校の副班長だった。
友だちは抜け目のないやつで、スリル至上主義な遊びを考える天才だった。授業中、配られた原稿用紙にデタラメな怪文書を書いたものを見せられたとき、僕は自分の作文がこの世で1番つまらない文章に見えた。
6月の朝、生徒委員会が考案したエコロジーイベントに備えて、生徒から空き缶が集められていた。リサイクルを学ぶことを考えて、缶詰ジュースなどの空き缶でかんぽっくりを作ったり、缶蹴りをして遊ぶとのこと。
友だちは抜け目のないやつだった、下駄箱の脇におかれた缶収集用の段ボールから、アルミ缶だけを取り出して、勢いよく縦にふみつけたのだ。
アルミ缶はくしゃと音を立ててひと息に平らになった。それは見事なものだった。
僕は友だちにならって、段ボールからアルミ缶だけを取り出して、勢いよく縦にふみつけた。なかなかどうして、こいつはこいつは。
「れいくん、どんどんやろう」と友だちが言った。
「うん」と僕。
僕たちは互いにアルミ缶を渡し合った。登校時の下駄箱は人の出入りが多く、女の子たちもいた、その分僕はよけいに勢いをつけてアルミ缶をふみつけた。
「なにやってんのあんたら!」と唐突に怒鳴られた。
僕たちの行為が数名の生徒に疑問を抱かせて、悪いうわさは瞬く間に先生の耳に入ったのだ。
「みんなが集めたもので! ふざけんな!」と、とぼけた顔のばばあ先生は怒鳴った。あっという間に、僕と友だちうわさの男ズはオトナが集まる場所に連れていかれた。
僕と友だちは悪意など一切もたずに職員室へ入った。気をつけして、背筋を伸ばし、世界と家族の平和を心から祈りながら。むきむきバカなだけ男先生がヤクザ映画のヤクザみたいな顔で僕たちをにらんだので、僕たちは、机の上のコーヒーカップをながめたり、予定表になってる黒板を見たり、灰皿から立ち上がる煙を目で追いかけたり、世界と家族の平和を心から祈ったりした。
「おまえら、なんでここにいるかわかってるな?」とむきむきが言った。
僕たちは黙った。そりゃあ黙るしかない。
「いま、サイトー先生も来るからな」とむきむきにつられてイキってるばばあ先生が言った。サイトー先生は僕たちの担任だ。
僕たちは黙った。そりゃあ黙るしかない。
「あれは、一年生と二年生が集めたのよ。あんたら、わかってんの?」と別のばばあ先生が言った。
わかってたら、やるわけないだろうさ。
僕たちは黙った。ついにサイトー先生が来た。サイトー先生はヤクザ映画のヤクザだ。
「おい、サカモト! おまえ、なんでやったんじゃ? わけをいえ」と友だちに言った。
友だちは寒いのかぶるぶるとふるえながら、涙を流し始めた。
「おい、イチカワ! おまえはなんでやったんじゃ? わけをいえ」と今度は僕に聞いた。だから僕は答えた。
「先にサカモトくんがやっていて、面白そうだったので、はい」
「そーいうやつは、ビンタじゃ!」
ものすごい衝撃音と共に目の前が真っ暗になり、小さな星のつぶつぶが目の中でたくさん光った。すると鼻の奥で鉄のにおいがして、叩かれた頰が熱くなってきた。
友だちと僕が教室に入ると、悪いうわさが他の生徒を沈黙させていた。僕と友だちの真っ赤な頰を見て口をふさぐ女の子もいた。
席について、僕は家を出る前に食べた母の朝ごはんを思い出していた。半熟の目玉焼きとわかめのみそ汁、たくあん、肉じゃがの残り、味のりもあった。頰が熱い。
とにかく早く、家に帰りたかった。
読んでくれてありがとう。明日も元気で!
多分僕もまた来ます。