土曜の夜の珍走バイク・パー券
ぶるんぶるんと、誇らしげに、夜のあいだ。気抜けした時代のせいか。土曜日の夜、僕はさっきから、珍走バイクの行ったり来たりの騒音を聞いている。
日常に張りのない時代のせいなのか。珍走バイクはガスを吹かして、ファミレスの前でぶるん、コンビニの前でぶるん、交差点を過ぎていく。自らはみ出したのに、はみ出たことを時代か誰かのせいにするかのように、ぶるんぶるんと、地元の国道限定珍走。
ははあ。「少年よ、非行に走るな、親が泣く」と、中学校の裏門の立て看板に書いてある。立て看板はよく見ると、透明なフィルムでラップされて、雨風から文字を守る工夫がしてあった。
少年よ、非行に走るな、親が泣く。
泣く親がいる少年は非行に走らない。
中学校の放課後、僕を呼び出した先輩に、関内で行なわれるパーティーについて聞かされた。先輩は、先輩の先輩が主催するパーティーに、先輩の先輩の知り合いのバンドが出ると言っていた。だからお前も来い、と僕に言った。券は色つき画用紙みたいにざらざらで、読みにくいにょろにょろ英語が印字されていた。
premium night / yokohama club / ¥2.500
先輩の提示した券の代金は5000円。
僕は家に帰り、一晩中このことを考えた。ゲームも漫画も食事もままならなかった。行かなかったら、買わなかったから、僕や家族の未来に平和がなくなる。
深夜、親のサイフから10000円を抜きとり、制服のポケットに入れた。驚いたことに、先輩は10000円わたすと、おつりをくれなかった。計算すら、なのかもしれない。
もちろん。数日後、僕は親からこっぴどく叱ってもらった。
ウィスキーもだいぶ回ってきた。土曜日の夜、僕はさっきから、珍走バイクの行ったり来たりの騒音を聞いている。
読んでくれてありがとう。明日も元気で!
多分僕もまた来ます。